「あいつらもじれったいもんだな」
どこか歯がゆい響きを乗せて玄田が言った。
「あいつらって?」
首をかしげて折口は玄田の視線の先を追った。
すると、すっかり馴染みとなった姿を見つけた。手塚と柴崎だ。傍から見ていると、彼らの気持ちはとても判りやすい。お互いに思いあっているのに、つかず離れずの関係をずっと続けている。そんな二人だ。
堂上と郁のようにどちらかが極端に鈍い二人ではないから、相手の好意は口にせずともなんとなく伝わってはいるのだろう。後一歩踏み出せばそれでカタが付くだろうに、その一歩が踏み出せないように見えた。
――それだけに見ているとじれったいのだろう。納得がいったように折口は頷いた。
「あの子達にはあの子達のペースがあるんでしょ」
――あたし達にはあたし達のペースがあったように。
長く付き合っているカップルでさえ、結婚までいたらず別れることも決して少なくはない。かくいう折口達がそうだ。
お互い嫌いになって別れた訳じゃなかった。寧ろ今だってずっと――好き、なのだ。
他にちょっといいな、そう思った相手がいないわけではなかった。けれども玄田相手程心の針が振れた相手もいなかった。
そうしてそのままずるずると、まるで戦友のような位置でずっと傍に居続けてしまったのだ。
(気が長い話よね)
未練がましいのだろうか。別れてからもう長い年月が過ぎているというのに。折口も間もなく不惑が終ってしまう年だ。
折口は結局のところ、別れる時に玄田に言われた言葉を忘れられないのだ。
還暦過ぎたら籍を入れるか、というあの言葉を。
いっそ忘れられていたら、今折口は別の男の傍で、別の道を歩いていたかもしれない。子供だって一人か二人育てていたかもしれなかった。
けれども、心の隅であと20年、15年、10年とあと少し。
そんな風にカウントしてしまう自分がいる限りは無理だった。
でも――
「あの子達がどうしても気になるようなら後押ししてあげたら?」
「俺が仲人するから結婚しろとでもいうか?」
「あら、玄田君知らないの?仲人は既婚者しかできないのよ」
「じゃあ、結婚するか?」
「・・・・・・誰と?」
「お前以外いないだろうが」
こんな風に一気にカウントが0になってしまったら、どうしていいのかわからなくなってしまった。
こんなにさりげなく。
何かのついでみたいに言われた言葉がこんなに嬉しい。
「この年になるまで生きてきて、お前よりいい女には出会えなかったからな――で、マキ。お前の返事は?」
くるりと振り向いてニヤリと笑う。
――だから、そんな風に不意打ちしないで。
頷く以外できないじゃない。