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短編
吸血鬼と付き合う方法2
 映画や漫画の中で、吸血鬼に血を吸われているシーンは結構艶かしく、耽美なものだ。
 実弦だって初めは物語のヒロインにでもなったつもりで、少しばかり陶酔したこともあった。
 けれども、こうも高い頻度で、既に数えるのも嫌になったくらい吸われた後となると、
「あなたね、自重という言葉をそろそろ学習しなさい!」
 叩き落としてしまっても無理はないことではないだろうか。
 蚊か何かのように。
 情緒なんてもはやない。


「一回に吸う量がいくら少ないといっても、こうも度々じゃ困るのよ」
 もう、絆創膏で隠すのも限度がある。
 大体、実弦の友人に、
「お盛んね。仲のいいことで」と冷やかされるのもたまらない。
 いえ、これはキスマークじゃなくて噛み痕なんですなんて言えやしないし、言ったところでそういうプレイと勘違いされかけない。
 まったく、最近の女子大生ときたら恥じらいがなくていけない。
 いくら夫婦間で、その冷やかしが半ば真実――週に三回のあいのいとなみ――だとしても、友人の冷やかしに頷けるものではなかった。
 開き直って
「ええ、仲がいいわよ!」というには実弦の修行が足りなすぎた。

 腰に手を当てて睨む実弦の射抜くような眼光を伊織は平然と受け止める。
 未練がましく実弦の首筋にいまだ視線をちらちら向けながらというのが、さらに彼女の怒りを煽るということを、何故この男は学習しないのだろう。
 それとも人を怒らせるのが趣味か、趣味なのか。
 ぐっとこぶしを握って、次は殴る、と決意した。
 しかし実弦の決意など察しもせず、伊織はさらにとんちんかんな反応を返す。

「・・・度々じゃなければいいのか?回数を減らすと、一度に吸う量が多くなってお前に負担が大きくなるが」

 ダメだこの男。
 本当になぜ自分はこいつと結婚したのだっけ。
 怒りが萎え、呆れの方が強くなる。握っていたこぶしから力が抜けた。

「・・・・・・もう少し融通利かせなさいよ。この際、血を吸うだけなら他の人間でも許すから。男でも女でもいいわ。ただし、犯罪はダメだからね」

 キスや軽いスキンシップ程度ならば実弦はとがめるつもりはなかった。
 最後までいってしまったというのでもなければ好きにすればいい。
 どうせ結婚しているのだ。
 法律で「妻」という立場は保護されている。ぽっと出の愛人なんぞには負けない。
 仮に離婚という憂き目にあったとしても、そこはそれ。
 搾り取れるだけ慰謝料を搾り取って、第二の人生を謳歌してやろう。幸い実弦はまだ若い。やり直し位できるはずだ。

「そもそもね、あんた血を吸うだけじゃ飽き足らず、イロイロ立つ鳥後を濁しすぎなの。もう夏になるのに余り薄着になれないじゃないの」
 自分では見えない場所にまでつけられた夥しい数のキスマーク。
 まるで何かの病気のようだ。
「これを脱いだら、あたしは麻疹の患者みたいよ。いい加減にして!」

 言い切ってやった。なのに――

「嫌だ」

 言い返された。速攻で。

「実弦以外には興味はないし。血を吸っても美味くない。実弦だから欲しいんだ」

 結婚を実弦に決意させたときと同じように、余りにも自然にさらりと言うから――。

「だったらもう少し大事にして、あたしの要求も飲みなさい!」

 襟首をつかんで引き寄せ、噛み付くように唇を重ねてやった。
 お互い嫌煙家同士の味のないキス。
 少し驚いたように目を見張っている様子に実弦はなんとなく勝利感を覚えた。
 もっともその感覚に浸っていられたのも僅かな時間で――うっかり相手の火をつけてしまい、ギブアップを宣言して、しまいには肘うちをして自力で逃れる羽目になったのはその後の話。



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