その相手をみただけでどきどきして、恥ずかしくて赤面しちゃうけど、眼が離せない。
会いたくて仕方ない。
その人の笑顔を見れただけで一日幸せになれる。
その人の一挙一頭足に踊らされる。
そんな気持ちなぁんだ?
「――恋か?」
ソラは私の問いかけに対し不可解な表情を浮かべながらも、そう答えた。
やはり、そうだったか。
薄々、そうかな、とは思ってはいたのだ。
そうかそうか。
「私、恋しちゃってたのか!」
これがその気持ち。
ああ、恋というものなのか。
思い出すだけで心臓がどきどきしちゃうし、笑顔を思い出すだけで顔が緩む。
「そっかぁ。恋かぁ・・・・」
「ちょっと、待て!相手は誰だ!どこの美少女だ!!」
「待て、なんで相手が美少女なのさ!私はあくまで美少女ウォッチングが趣味なだけで別に同性愛好者ではないと何度もいったじゃないのさ!」
ソラったら、もううっかりさん。
「恋だよ?やだな、相手は男の子に決まってるじゃないのさ」
信じてなかったのかな、レズじゃないといっているのに。
「ど、どこのどいつだ!馬の骨だ!俺に会わせろ!!!」
――全く、君はいつから私の父親になったんだね。
私は呆れた顔になった。
まるで、私、結婚をしますと父親につげた時の反応みたいだ。
いや、私には今だかつてそんな経験は全く無いがね。
晩婚の時代、私はまだ10代で嫁に行く気はない。
しかし、このソラの様子。
この次は、俺の目の黒いうちは娘は嫁にやらーん!とか、俺の屍をこえていけとかいいかねないぞ。やれやれ。
「会いたいの?」
「勿論!」
ソラは鼻息荒く、きっぱりと言い切った。
仕方ないなぁ。
私は苦笑して肩をすくめる。
この分じゃ、ソラは引きそうにない。長い付き合いだ、それくらいはわかる。
「じゃあ、会わせてあげる。ソラは今日5限で終わりだよね?」
「ああ、お前もそうだろ?」
「うん、じゃ、待ち合わせようか。終わったら校門の前で待ってて」
「わかった。・・・本当に美少女じゃないのか?」
ソラもしつこいなぁ。それとも信用無いんだろうか。
日頃のぼろくそな台詞を思い出すだに、その路線も捨てきれない。
困ったもんだ。
「当たり前でしょ?・・・まぁ、美少年だけどね」
「俺だって・・・・少年、じゃないかもしれないけれど、美青年だぞ」
自分で言い切るかソラよ。
そして、そこで何故張り合う。
「別に美少年だから好きになったわけじゃないよ」
ソラなんて、私を散々貶してくれるしさ。
なんていうの、癒し?
癒しをくれる相手っていいよね。
「もう、先輩って呼んでいる姿とか見ちゃうとねぇ。笑顔も可愛いし」
「年下なのか!?いくつだ!?・・・どうせたかだか数年しか年が変わらないガキによろめくなんて。先輩後輩という呼称如きがそんなにえらいのか!」
ソラ、なんか錯乱しているよ?
ふふん、可愛い後輩に飢えてるんだな?
「この間は数ヶ月の年の差を勝ち誇ったくせに。なんだ悔しいのか?年を偽ってるだの、小さいだの散々貶したくせにーーー!」
「あ、あれはその・・・。・・・お前の事を先輩、といって慕えばいいのか?」
「ソラがそんなこといったら気持ち悪いし。・・・というか、何いってんのさ」
ソラのほうが数ヶ月上なのに先輩かよ。錯乱するにも程があるぞ。
ああ、あれか、もしかして。
お姉ちゃんをとられちゃった弟の気分ってやつ?
それとも、妹を取られた兄の方だろうか、先ほどの台詞からして。
馬の骨だなんて、久しぶりに聞いたぞ、ほんと。
「ま、いいや。とりあえず後でね、それじゃ」
長話をしている暇はもう余り残されていなかった。
そう、今は昼休み終了間際ってヤツだ。
教室移動があるから、もう次の授業の為に移動しないといけない。
ソラは難しい顔をしながらも、頷いていた。
やれやれ。
自分は好きな人がいるらしいのに、わがままだなぁ、ソラは。
(――あれ、そういえば、この間浜名さんを断ったときには私を引き合いに出したんだっけか)
確か、私と遊んでる方が楽しいとか、そんなことを言ったといっていた気がしたな。
前にいっていた好きな相手とやらのことは諦めたんだろうか、ソラは。それとも、その人を矢面に立たせたくないと思ったのだろうか。
ソラに聞いてみないことには答えは出ないけれど、そこまでソラの事情に踏み込みたいわけでもない。
人には、土足でずかずか踏み込んではいけない領域というのも確かに存在しているのだ。
たとえ仲のいい友達だとしても。
私はソラに振り返って手を振ると、次の授業へと向かったのだった。
「――で、なんでお前の家なんだ?俺に相手を紹介してくれるんじゃないのか?」
ソラは首をかしげていた。
紹介?どっちかっていうと、見せるって感じなんだけどなぁ。
ソラを、紹介なら無理やりできないこともないけれど。果たしてそれが紹介する、ということになるのかはわからない。
うーん、言葉の意味って難しい。
「え、私の部屋にあるからさ」
今、私とソラがいるのは我が家の前だった。
鍵を開けてソラを招き入れる。
ソラは顔に疑問符を浮かべながらも、促されるまま私について家へ入った。
「・・・ある?」
「うん、ま、あがってよ。久しぶりだね、私の部屋まで来るのは」
「だって、それはなぁ・・・」
「最近はそんなに散らかってないんだよ?」
「って、お前のそんなは当てにならないわ、ボケ!」
「ひっどいなぁ。何年前の事をいってるのさ。・・・さて、いらっしゃい」
私は自分の部屋の前に来ると、扉を開けた。
ふふん、どうだ。そんなに散らかってないだろう。
ちょうど昨日片付けたばかりだ。彼の為に場所をつくらねばならなかったからね。
「さ、私の恋する彼に存分にあいたまえ!」
遠慮なく、さぁどうぞ!
私はソラの手を引くと、本棚の前へ導いた。
さて、ご対面だ。
――そこには、私が最近大人買いで全部揃えた『月に泣く娘』全21巻がびっしりと綺麗に並べてあった。
そう、お目当ての彼は、ヒロインをとりまく少年の一人なんだな。
絵も綺麗で、ストーリーもお薦めだ。
その上、キャラが魅力的でねぇ・・・・。
「って、少女漫画じゃないかーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
何故か、ソラが絶叫した。
「少女漫画だけど?」
けろりとした顔で私が言うと、ソラが心底疲れ果てたような顔で私の部屋に座り込んだ。
「凄く可愛いんだよ。もう、笑顔を見ているだけでめろめろになっちゃう。あの子の顔を見てると、ああ、私もがんばらなきゃなって励まされるんだ。でも、ヒロインとは結ばれないんだよね。けど、ずっと支えてくれるいい子なんだよ」
誰かさんと大違いの可愛さだ。
きっと、女だったらお嫁さんにしたいナンバーワンだろう。男だけど。
「俺の心臓を止めるくらい驚かせておいて・・・」
「なんだよ、漫画じゃ文句あるのか!?」
月に泣く娘は名作なんだぞ。
「だって、生身じゃないじゃないか」
「でも、ソラがいったんじゃない。恋じゃないか、って」
失礼しちゃうなぁ、自分がいった台詞を忘れたのか?
「俺は、相手が実在の人物相手の場合のことを言ったんだ」
「二次元をバカにするな!世の中には脳内嫁(しかも下手をすれば複数)を養っている人もいるんだぞ!」
確か、知り合いにもいたはずだ。
「山田先輩の事か!あの人は、いいんだよ、それで幸せなんだから!給料の半分以上をグッズに使い込んでいようと、本人が幸せなんだから止めないでやるのも優しさだ!」
「私だっていいじゃないか!」
「お前は、あの世界の事を知らない!そんな半端な覚悟でやれるもんじゃないんだぞ!」
血相変えてソラが言い募る。
そ、そこまで凄いものなのか・・・・。
私は山田先輩を少し見直した。
「そっかぁ・・・じゃあ恋じゃないのか」
私も少しわかったかなぁと思ったのに。
「・・・そんなに、恋したいのか?」
「うん、まぁ、一度くらいはね」
命短し恋せよ乙女というじゃないか。
「――教えてやろうか?」
「ん?いいよ、そのうちわかるだろうし。こういうのは教えてもらうものじゃないでしょ」
きっと私にはまだその時期が来ていないんだろう。残念だけど。
「即答かよ!?」
ああ、俺また失敗したこいつ相手に俺は何を・・・とかなんとかソラが俯いてぶつぶついっていた。
私相手にどうしたというのだ。
ああ、ソラが私を哀れんで、優しくしてやろうと思ってしまったのが自己嫌悪とか、そういうところかな。
ソラの優しさは難しい。
「ソラ」
「なんだ?」
私が呼びかけると、ソラが顔を上げた。
「あのね。もし、私に好きな人が本当に出来たら、そのときはいうから」
「本当か?」
「うん、だってソラのほうがこの手のことに関して経験豊富そうだし――親友でしょ?」
にっこりと微笑んだら、ソラがショックを受けたように頬を強張らせた。
まてまて。なんだ、その顔。
親友というのが不服か。まてよ、ここは、心の友よ、というべきシーンだったか!
「悪かった、ソラ!心の友よ!お前のものは俺のもの、俺のものは俺のものだ!」
私はよい子向けの名作アニメで有名なあの言葉を口にした。
どうだ、これで不満は無いだろう!
私は胸を張って自信満々に言ったのに、ソラの表情は一向に変わらなかった。
それどころか、溜息をついて――
「お前、絶対わかってねぇぇぇ!?」
何故か、また叫んでいたのだった。
あれぇ、私また何か間違えたのか、もしかして?
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