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多分それはラブコメディ
もみじ手形が残る頬2

「あ」
 ソラが急に声を上げた。まずいな、と呟いているみたい。
 どうしたのさ、と私は聞き返す。
「・・・俺さ、明日バイトの面接なんだけど。消えるか、これ?」
 ソラの差し出す頬にはまだ綺麗な紅葉を思わす手形痕が自己主張中。
「どうかな?ファンデーション貸してあげようか?隠すの手伝ってあげよう」
「遠慮する。お前、ついでに人の顔弄くる気まんまんだろ」
「イエス、ザッツライト!それくらいは特典ないと。もっと美しくしてあげるよ、ソラ」
 想像すると楽しいな。きっと、眉を整えるだけで、男前度があがるだろう。素材がいいと弄り甲斐があっていいやね。
 にこにことソラの顔を見上げていたら、おやまぁ。ソラは凄い顔で睨んできた。

「男が美しくなってどうするよ。ってか、お前が化粧道具を持っていた事に驚きだ。今、お前化粧してないよな?」
 ソラは私の顎を持ち上げて、まじまじと顔を見つめてきた。
 その通り、私は今は化粧などしていない。
「してないよ。ついでに、ここ数日お肌が荒れてるからあんまりまじまじと見るのはやめてくれるかね」
「なんだよ、夜更かしでもしてたのか?」
「うん、ちょっと長電話」
 長電話って切るタイミングが難しくてだね。ついつい夜更かしを・・・。

「女って長電話好きだよな」
「うん、相手は男だったけどね」
「・・・・・・・は?」
「いや、だからね、相手は男だったけど長電話だったってこと」
 人付き合いを面倒くさがって余りしないソラと違って、私は別に友達が他にいないわけではないのだよ。
 驚いたかね。
「何時の間に、お前付き合ってる男できてたのか?」
 そんなに驚いた顔しなくてもいいよ、別に。単に友達だし。
「まさか、その男のせいで化粧するようになったのか!?」
 詰め寄らんばかりの形相で言わなくても。

「なんで、私が男の為に化粧せにゃならんのさ。女の子たちと遊びにいく時に使うんだよ。ついでに今もフリーです。ソラとは違うんだよ」
「・・・そうか」
 そういやそうだな、とあからさまにほっとした顔されるのはどういうことかな。
「私が男と出かける時に化粧したら、そんなに変だとソラは思うの?」
「お前、俺と出かける時も身形構わないくせに!」
「ソラと出掛けるときにお洒落する必要性がそもそもないでしょ。そりゃ高級レストランとかいくならTPO考えるけどさ」
「だって、お前美味しいもの食べるの好きだけど、堅苦しい所は嫌だっていうじゃないか」
「うん、だって肩肘張ってたら、美味しいものも喉を通らないからね」
「・・・そういうヤツだよな」
「そういうヤツだよ」
 私はにっと笑いかけた。
 昨日電話していた相手もいいヤツだけど、ソラは口の悪ささえなければ多分いいヤツだ。
 私の好みがよくわかっているし、したいこと、したくないことも飲み込んでいるから居心地がいい。
「行きたくなったら言えよ。俺がつれていくから」
「そうだね、まぁ、その時は誘うよ」
 その時が来るかわからないけどね。
 いやぁ、お値段も高級だから、そうそう行きたい気持ちにはねぇ。ならないと思うんだな。


 食べ物つながりで、今日は家の御飯にソラを呼ぼうかなんて考えていた。
 ソラと私は幼馴染という関係で、家も隣同士だ。
 高校の時はお互い別の高校に行ったりして、会う機会は少なかったが、お互いの両親同士も仲が良かったりするせいか、
どちらかの家の親が不在の時は、もう片方の家の夕食時に呼ばれるなんてことが日常茶飯事だった。
 ソラがいようがいまいが私は隣の家に御飯を食べにいったし、私がいようがいまいが、ソラが家に来て御飯を食べていったりなんてした。
 ソラも私も未だに実家暮らし。
 確か、今日はソラの家の御両親は不在のはずだ。
 
 ねぇ、ソラ御飯たべにくる?
 そう言いかけたら先にソラに話しかけられて、誘い文句は飲み込む嵌めになった。

「・・・で、何の電話だったんだ?」
「え?気になるの?」
 普段は詮索なんてするヤツじゃないのに珍しい。
「そんなに電話で長く話せる話題があるのが不思議だ」
「あ。成る程ね。いやいや、初めはサークルの打ち合わせだったんだけど、そのうち話が逸れてだね」
「サークル?何時の間に入ってたんだ?」
「おいおい、もう入学してからどれだけ立ってると思うのさ。入ってるよ、水泳部。いや同好会?」
「す、水泳?」
「そうだよ。ソラが教えてくれたよね、水泳。いやぁ、お陰さまで役に立ってるよ。あれは反射神経やら運動神経がキれてる私でもできる唯一のスポーツ競技だからね」
 私は悲しいかな、運動音痴だ。
 唯一できるのが水泳。ソラに教えてもらった。
 あの時、根気よく付き合ってくれたソラがいなければ、今の私がいなかったよ。ありがたいことだ。

「で、この間から入ってたわけ。昨日はそれの打ち合わせ。一昨日もそれの打ち合わせ」
「二日も水泳部の打ち合わせって何を話せばそうなるんだ?」
「えーと、なんだったかな。ああ、そうそう。打ち合わせして、話が逸れて、最後は中華まんの話になってたな。今度美味しい所に連れていってくれるって」
 時期としては外れているかもしれないが、春に肉まんもオツなものだろう。
「どう話が逸れてそういう話になるんだかわからないが・・・。行くのはダメだ」
「え、なんで」
 予想外の却下に私は面食らう。
 なんでソラが?
 瞬きしてソラを見ると、ソラはあー、っと口をもごもごして、頭をかいた。
「・・・・肉まんは俺が美味い所に連れていってやろうと探してあったんだ。だからダメ」
「そっかー。それなら仕方ないなぁ」
 未練がないといったら嘘になるが、私の好みを熟知しているソラに連れてってもらった方が、確かだろう。
 誘ってくれた相手には仕方ない、今度又別の機会に、とでもお願いしようか。
「わかった、適当なこといって断っておく」
「そうしてくれ」
 ついでに水泳も辞めないかといわれたけど、それは却下した。
 食べるのが好きであるからには、運動もしなければならないのだ。
 唯一できるスポーツは水泳しかないのだから、選択権はない。
 そう言ったら、
「俺も入ろうかな。お前が心配だし」
 そんなことを言って来た。
「酷いな、もう溺れたりしないよ!」
 ソラの中ではまだ泳げなかった私の姿のままなのかもしれない。


 話が一区切り付いた所で、私はもう一度切り出した。
「で、ファンデーションはいらないの?」
 今見たら、大分赤くなっている。これは痛そうだ。正直、少し目立つ。
「いるか、ボケ!」
 本当に、この口がなければいいヤツなのに。
 それでも、私はこの口の悪い幼馴染が嫌いじゃない。
「仕方ないなぁ。今日、うちで御飯食べてきなよ。ついでに、その痕もう少しましになるように、手当てしてあげる」
 だから、少し手を貸してあげようと思う。
 バイトの面接で悪印象与えたらかわいそうだから、ね。

 誘いをかけたら、ソラはなんだか嬉しそうだった。
 そうかそうか、そんなにお腹がすいていたのか。それとも、明日のバイトの面接が心配だったのか。
 ソラが満足そうだったので、私もなんとなく満足した気持ちになった。

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