楽になりたい
x.何よりの贈り物(未来パラレル)

「はい、プレゼントです」
 ふわり、とサシャがイサハの首に巻きつけたのはマフラーだった。
「今日は12月25日ですから」
 種明かしのように告げる。
「そういえば、国民の休日だったな」
「そうです。大事な人の幸せを祈って、思いを込めたプレゼントを贈る日ですよ」
 忘れてました?とサシャは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「いや、忘れていたわけではないが」
 イサハは僅かに目を見張ると、恐る恐る巻かれたマフラーへ手を伸ばした。
「まさか、俺がもらえるとは」
 何代か前の偉大なる王が国を平定した日を記念して作った記念日。
 この日は家族や恋人と共に過ごし、相手の幸せを祈り、様々な思いを託したプレゼントを贈りあう日でもある。
「旦那さまですから、ね」
「そうか。・・・暖かい、な」
 余り変わらない彼の表情も、このときばかりは嬉しそうに見えた気がした。
 彼女の気のせいかもしれないけれど。

「寒そうでしたから、イサハさん」
 凍りついているように見える表情筋も、よくよく観察していれば僅かな違いが見えるものである。
「・・・。」
「なんですか?」
 これは、何か言いたい事がある時の目だ、と今の彼女にはわかった。
「イサハと」
「・・・すいません、直らないんです」
 直そうと努力はしているのだが、いっかなイサハ、と呼び捨てする事は敵わない。
「来年は物はいらない。代わりに名前を呼んで欲しい。きちんと」
「・・・おねだりですか?」
「そうだ」
「そうですね。・・・私が欲しいものを、来年くれるなら考えて見ますよ」
「何を?」
「それは当ててください」
「・・・・・わかった」
 少し難しい顔をしながらも、イサハは頷いた。
 あと一年ある。ゆっくり考えてもらおう。彼女の欲しいものはなんなのかを。

「そうだ、これを」
 ふと思いついたようにイサハが自らの懐を探りだした。
「・・・なんですか?」
 手を出すように促され、首をかしげながら彼女は手を差し出した。
小さな包みが広げた手のひらの上に乗せられる。
「俺からの」
 つまり、イサハも用意していたという事か。
「プレゼントですか?」
「ああ。・・・今日は、大事な相手の幸せを祈って贈り物をする日、なのだろう?」
「大事ですか?」
「無論」
 彼女は瞬きして、小さく笑った。
「開けてもいいですか?」
「構わない」
 包みを解くと、小さな箱がころりと出てきた。
 綺麗な装飾を施された小さな箱を開けると、中から綺麗な音のなるハーモニーベルが出てきた。
「体にいいそうだ」
「綺麗ですね」
 つけてもいいですか、とお伺いを立てて相手が了承したように頷くのを見ると、ハーモニーベルをペンダントヘッドのように通した鎖を首につけた。
「なんだか猫みたいですね」
 つけて歩くとシャランと綺麗な音が鳴る。
「猫みたいに勝手に出て行かれると、困る」
「困りますか?」
「困る」
 珍しく本当に困ったように顔を曇らせたので、彼女は噴出した。
「・・・冗談でも困る」
「わかりました、大丈夫ですよ。出て行きませんから」
 イサハが許してくれるのならば。
 ずっと彼女はここにいたいと、思っているのだから。

「その調子なら、来年のプレゼント、期待してもよさそうですね」

 来年末を過ぎると、彼と連れ添ってから3年目が来る。
 もう、脅威は去ったから、彼と寄り添う必要はないけれど。

――欲しいものは、当たり前のように彼の傍らに自分がいる未来。
 

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