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魔王様の召使の君
7.一番のご褒美 後編

「それで、お前は何が望みだ。やはり魂片で支給しておくか?お前の場合魔力に転化することはできないが、人間で言う貨幣の代わりに使えるぞ」
 魔王様はこほんと咳払いをすると、仕切りなおした。
 お前へのボーナス支給はDランクだ、とおっしゃって私の望みをお聞きになる。
 本来であれば、魔王様ではなく、それぞれが仕える上司から言われるものだが、私の上司は厳密で言えば魔王様一人。
 だからこそ、私は魔王様から直接ご褒美をいただける。
「Dランクってどれくらいですか?」
「まぁ、人間界でいえば、そこそこ裕福なものが一月に得られる賃金と同じほどかな」
「それ以下の望みであれば叶えてくださると?」
「・・・・・・ものによるが」
「では、ぱん・・・」
「ぱんつは却下!」
「そ、そんなに魔王様は私の気持ちを汲むのはお嫌ですか。ああ、なるほど。好きな子を苛めて喜ぶSな方なんですね」
 魔王様の性癖が、いまここにあかされる!
「そんなわけあるかーーー!」
 そんなわけでもなかったらしい。
「えぇと、それじゃあ・・・」
 思いつかない。
 魔王様に仕える以前より数倍裕福な暮らしをしている現在、特に欲しいものはなかった。
「それじゃあ・・・・・・」
 ああ、そういえば物品でなくてもよいのだった。
 何かをする権利でもいいとそういえばきいた気がする。
「魔王様、では望みを申し上げます」
「言ってみろ」
「今度、私が行きたいところに一緒にいってくださいませんか?」
 いつか行ってみたいと思っていたところ。
 一人で行くのはちょっと気が引けて、今まで足を踏み入れたことはなかったのだ。
「・・・・・・まあ、それくらいならよかろう」
「本当ですか?」
「ああ、二言はない」
「わかりました、楽しみにしています!」
 私は顔を輝かせた。
 今なら魔王様の頬に熱烈なベーゼをお送りしたい気分だ。
「では、お時間取れる日程など決まりましたらご連絡ください」
 ――魔王様とピクニックだ。
 思えば、お仕えするようになってから、仕事でなく一緒にどこかへ出かけることはなかった。これが初めてだろう。
 私は喜びのまま優雅に一礼すると、執務室を離れた。スキップで。

 
 約束の日が来て、私は魔王様と共にピクニックにでかけた。
 場所は当日まで知らせなかったのだが、現地へつれてったところ、魔王様の眉はみるみると急角度に釣りあがった。
「己はアホかーーーーー」
 耳がきーんとなった。
 洞窟では音が必要以上に響く。
 私の繊細な耳がしばし使い物にならなくなった。じんじんとする。
「えぇと、何かいけませんでしたか」
「当たり前だ!」
「どうしてでしょう?」
「呪われし洞窟は禁域だ」
「抜け道をせっかく発見したんですが」
 呪われし洞窟とはその名の通り呪われているらしい。
 この洞窟はなんでも何十代か前の魔王の怨念がこもっているのだとか。
 この洞窟がそれだと、今知った。
 呪われし洞窟、それは呪われし洞窟。そのまんますぎる。
 とてもセンスのないネーミングだと私はおもった。
 私に任せてくれたらもっと素敵な名前をつけてあげるのに。呪手異夢(じゅていむ)とか。
 ジュテームとは、私の暮らしてた人間界の一部で使われている言葉で、愛しているを意味するらしい。
 呪いと愛とはどこか似ていると私はおもう。どちらも根底に執着があるのではないだろうか。
 そんなことを思いながら、私は洞窟の奥への好奇心を捨て切れなかった。
 未練がましく、洞窟の入り口から中のほうをうかがった。奥のほうは暗くてよく見えない。
 どんなものがあるのだろう。呪われているといくらいだから、足を踏み入れたら閉じ込められるとか、恐ろしい罠が発動するとかそういったものだろうか。
「面白そうな洞窟だとおもったんですが」
 私は残念そうにつぶやいた。
「危険だから立ち入り禁止にしているんだ。・・・・・・大体、コレをどこで見つけた」
「露天風呂の覗きに絶好スポットを探索してたら、裏手に」
 私は全てを言う前に、魔王様にどつかれた。
「何のために探していたかとかはきかん。俺の血管がきれかねん」
「魔王様の体を鑑賞す・・・」
「言うな!耳が穢れる!」
「・・・・・・えーと、とりあえず。ここの探索はだめってことですね?」
「そうだ。お前にしては理解が早かったな」
「むーん、残念です」
「お前への褒美は別のものにすることにする。わかったら帰るぞ」
「・・・・・・くださるんですか?」
「働きに対しては労ってやらないといけないからな」
「でも、魔王様お忙しい中お時間作ってくださったのに」
 結局洞窟探検はできなかったが、時間を割いてくださったのは間違いない。
「その延長だ。気にするな。・・・・・・帰るぞ」
 しかめ面をしたまま、魔王様は私を連れて城へ帰還なさった。

(少しでも心にかけてもらえることこそ最大の褒美なのに)

 私はくすくすと笑った。魔王様が怪訝な顔でそれをご覧になっている。
「なんでもないです」
 そうか、とぶっきらぼうにつぶやく魔王様を見て、私の胸は温かくなった。



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