ある日のことだ。
「トリフェに妙な考えを吹き込んだのはお前か」
魔王様からこんなお言葉を頂いた。
妙なとは?
「何のことをおっしゃっているやら、卑小なる存在の私めにはとんと判りかねますが・・・」
本当にわからない。
トリフェ様が妙なのはいつものことではないか。
「お前しか考えられないのだがな」
「はぁ・・・」
そう仰られましても、トリフェ様が妙なのは私のせいではなく、ご自身の素質だと思うのですが。
私は首をかしげながら、魔王様のお召しかえを今日も手伝おうとした。
「今日のお薦めは豹柄のセクシービキニパンツかピンク色のキャラクター柄トランクスでございます」
私はそういって、左手に豹柄のセクシーなビキニパンツ、右手に人間界で有名だった白い子猫をモチーフとしたリボンの似合うキャラクターもののピンク色のトランクスを差し出したが――――――
「あぁぁぁ、御無体な!」
魔王様に無情にもぶん投げられた。
顔色一つ変えないなんて!
ああ、宙を舞うパンツ。せっかく下ろしたての新品だったのに。
「お前は、いい加減パンツ以外に興味を持て!」
今日も私は魔王様にどつかれた。
勿論、私は脆弱な人間であるから、魔王様には手加減をされているのだが、痛いものは痛い。
――おかしいなぁ、今日こそお気に召していただけると確信していたのに。
* * *
「最近、トリフェが奇妙な行動に出るようになった」
「至高の存在たる魔王様方上級魔族の方がなさることですから、只人の私では測りかねないお考えがあるのだろうとお見受けします」
私が畏まってお答えすると、魔王様はフン、と鼻を一つ鳴らした。
「具体的に言うと、とある魔族が最近トリフェの視線を感じて怖いというのだ」
「はぁ、トリフェ様にも思う方ができたのですね」
それはいいことだ、私のところにお茶しにくる回数も減りそうで。
「いや、それは前からだ。その件とは違う」
「前からいらしたのですか」
だったら、とっととくっつけよ。
でんでんでも送りつけてさ。
「では、お部屋様ができる日も近いということですね。それはよろしゅうございました」
妹なんぞにかかずらわず、とっとと告白してくれればいいのだ。
そうすれば、トリフェはその人とハッピー、私もトリフェ様との心臓に悪いお茶会を開かず済み、大大円だ。
その時には、盛大に祝福してさしあげよう。
想像するだけで、にこにことした笑顔が漏れた。
「・・・いや、それはどうだかな」
トリフェ、可哀想そうに、と呟く魔王様のお声がする。
そうか、余程の高嶺の花に惚れてしまったのだな、トリフェ様は。
袖にされた悲しさを、私とのお茶会で慰めていたのかもしれない。
お相手は、魔界一の美女と名高いトメト様だろうか。
それとも色香を誇るナガネキ様だろうか。
こうしてお名前を並べると、お野菜博覧会のようだな、などと勝手な感想を思い浮かべつつ、トリフェ様を袖にしそうな美女達をありったけ脳裏に思い浮かた。
魔王様の側近というポジションや容姿などを物ともせず、彼を袖にする理由としたらきっとあの強度のシスコンが原因だろうと私はあたりをつける。
人間界でも、強度のコンプレックスの持ち主はお付き合い相手には遠慮したいものだから。
マザコンしかり、ファザコンしかり。
お嫁に行った先の旦那がマザコンで、それを理由に離婚した、などという話も人間界ではよく聞いた。
「なるほど、魔界でも強度のシスコンはお付き合い相手として遠慮したいものなのですね」
私はほうほう、と頷いた。
人間と魔物の間では価値観の差をよく感じるのだが、これに関しては魔界でも同じようだ。
「・・・・・・どうしてそういう結論が出た?」
話を聞いていたのか、と問われる。
勿論聞いていたに決まっている。他ならぬ、我がご主人様のお言葉ですから。
「いえ、魔王様のお言葉からして、トリフェ様と思い人とは通じ合えていないようだと判断致しました。魔王様の側近という立場や様々なオプションは魅力的なはずにもかかわらず、トリフェ様を袖になさるなら、その点を差し引いてもあまりある余程の欠点がおありなのだろうなと思いまして」
強度のシスコンというのは、大きな欠点としてあげてもおかしくない。
望まぬ縁だが、何度か彼と話したこともある私である。
私が彼に関心を余り持たないせいかもしれないが、シスコンという以外に特に大きな欠点は感じられなかった。
件の想い人にとって好みじゃない、という可能性も高いが、とりあえず付き合うくらいの選択肢くらいはありそうだ。
何しろ魔物だから人間のようなモラルもない。一度に複数付き合うことすら朝飯前だ。
時には兄弟とすら契る時があるとも聞く。余り一般的ではないのは、兄弟姉妹でコトに及ぶと後で悪酔いするかららしい。近親相姦という人間界の禁忌も、魔界では二日酔いと同レベルなのが悲しい。
「シスコンが欠点かどうかはともかく、欠点以前に興味をもたれていないようだな」
「まぁ、お可哀想に」
「他人事だな、お前」
他人事ですから、勿論。
にっこり笑って頷くと、なぜか魔王様はこめかみに手を当てていらっしゃるご様子。
頭痛でも?
それは大変だ。
慌てふためいて医師を招き寄せようとしたところで、止められた。
体調不良ではないらしい。良かった良かった。
接触嫌悪症の魔王様は触診が不可能なのだ。
懸念される事態でなくて私はほっと胸をなでおろした。
↑
Newvelランキングに参加中(月1回)