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魔王様の召使の君
3-3.哀れなる男たち

「命ずる」
「はい」
 私は頭を垂れたまま、魔王様の言葉を聞く―――――――――が、
「では、トリフェの妹の恋人――シイ=タクェの傍に張り付き、惚れたフリをしろ」
「・・・惚れたフリですか?」
 意図が不明だ。
 思わず下を向いていた顔を上げて、魔王様のお顔を覗き込んでしまった。
 不敬などという言葉は、今の私の頭になかった。
「ああ、こうなるといっそ主原因には滅んでもらうのも手だろう。いちいちトリフェの熱視線を恐れた件のシィ=タクェから上申されるのも面倒だし、他の部下からもトリフェが奇怪な行動に出ている性で仕事に支障が出ると苦情が来ている。ここは、面倒を省くためにトリフェに葬ってもらった方が楽だ」
「惜しいとは思わないのですか?」
 シィ=タクェ様とてご自身の部下であろうに。
「いや?国が壊れそうだからと止めたのが今となっては仇となったな」
 くすりと笑う。
 魔王という存在の本質を垣間みた気がする。
「トリフェの妹には泣いてもらおう。問題はトリフェの力加減だが、お前がシィ=タクェの傍に張り付いていれば、巻き込まないために調整くらいするだろう。初めからそうさせていればよかったな」
 国が壊れるのは面倒だと淡々とした口調でいって、魔王様は薄く笑った。
「私が張り付いて惚れたフリをすることと、トリフェ様がシィ=タクェ様を消滅させることと何が関係あるのでしょうか?」
「お前が考える事ではない」
 そう言い切られては私も継ぐ言葉がない。
「畏まりました」
 そういって、魔王様に従うのみだ。
「・・・・・・。お前、本当に考える気ないだろ」
「はい?ええ、魔王様がそう仰いましたから」
 ならば私が考えることではない。
 トリフェ、本当に哀れな奴・・・という呟きが魔王様の口から漏れたが、哀れなのはシィ=タクェ様ではないのだろうかと私は思う。
 魔王様の不可解な反応に首をひねりながら退出させて頂いた。

「そうそう、お前もシスコンは嫌なのか?」
という去り際の一言には「勿論です」と頷いた後で。
 魔王様は腕を組んで難しい顔で何か考えているようだった。



 魔王様のお言葉どおり、数日シィ=タクェ様の周りをうろついていたら、本当にシィ=タクェ様は消滅してしまった。
 光の刃が彼を貫いたと思うと、まるで雷が落ちた大樹のように、一気に燃え尽きて消えてしまった。
 あっという間の出来事だった。
 あっという間過ぎて、何が起きたか私にも暫くわからなかった。
 
 私が暫く呆けて立ち尽くしていると、魔王様が私を回収に来てくれた。
「終わったな」
「終わりましたね。何があったのだか、と思いました」
「とりあえず、これで面倒な苦情から開放されたな」
「トリフェ様に罰をお与えになるのですか?」
 戦でもないのに、魔族を一人消滅させたのだから。
「ああ、勿論」
 事も無げに頷く魔王様を恐ろしいと思った。
 一体どんな罰だろう。
 裏庭の草むしり(魔力使うべからず)か、城のトイレ掃除(魔力使うべからず)か?

「とりあえず、お前とのお茶は一週間抜き」

 どうしてそれが罰になるのかはわからなかったが、それなら私にも朗報だ。
「魔王様、私、貴方の召使でよかったです。一週間といわず、一月でも、一年でも、永久にお茶ぬきでもいいですよ」
 スキップしながらいうと、魔王様は苦笑しながら、
「それはトリフェの前でいうなよ。使い物にならなくなるから」とおっしゃった。
「?はい、お約束します」
 意味はわからないけれど。
 よし、と頭の上に置かれた手が少し心地よかった。

 うーん、残念ながら意味は全くわからなかったけれど、いい仕事をした気分だ。
 私は鼻歌を歌いながら、今日も魔王様のお召しかえを手伝おうとして、

「だから、パンツはもういい!」

 赤地に黒の龍の刺繍があるトランクスと、虹色のグラデーションのボクサーパンツを魔王様の手で吹き飛ばされたのだった。


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