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きせ・かえシリーズ
7.キセ・還る 3

【おにんぎょうになったむすめのはなし 2】

 エアリスは食料を抱えて家に帰り、貯蔵庫へしまうとがっくりと椅子に腰を下ろしました。
 母親がいなくなってから、家は活気が消え、がらんと寂しくて冷たい場所になってしまいました。
 暖炉で赤々と火は燃えているはずなのに、凍えるほど寒く感じます。

(ああ、誰もいなくなってしまったわ)
 エアリスは零れ落ちる涙をぬぐいながら思いました。
(これであたしは、本当にひとりぼっち)
 ぽろり、又一つ涙がこぼれます。
 大好きな母親に会いたくてたまりませんでした。
 けれども、母親は天の国で暮らしているのですから、エアリスは会いに行くことができません。

(このまま泣き続けていれば、溶けてしまえるかしら?)

 溶けてしまえば、エアリスも母親と、父親とご先祖様の住まう天の国へ行くことができるかもしれません。
 けれども、天がお望みでないときにエアリスが生命の炎を枯らしても、天の国へはたどり着けません。
 恐ろしくて暗く冷たい地の国で、罪人として裁かれてしまうかもしれないのです。
 そうなれば、二度と母親とは会うことはできません。
 怠け者も天の国へはいけないとききますから、エアリスはどうにかして泣き止んで、元気になり、またあのおかみさんのもとか、あるいは別のどこかで働けるようにならなければ、やっぱり母親とは会えません。
 けれど、母親にあえなければ、エアリスの涙はとまりそうにないのでした。

(いっそ、お人形になってしまいたい)

 そうして、天の国がエアリスをお望みになるときまで、お人形のままですごすのです。
 そうすればエアリスは、お腹もすかなくなりますし、働かなくても怠け者と誰かに罵られることはないでしょう。
 涙も流さなくなります。
 なぜならお人形なのですから。お人形は動かないものです。
(お人形になりたい)
 また強く思いました。

「人形になりたいのか?」
 するとどうでしょう、どこからか声が聞こえるではありませんか。
 エアリスは声を出すことができなかったので、返事をする代わりに、こっくりとうなづきました。
 しかし、一体誰の声でしょう?
 探そうにも周りがよく見えないので、見つけられません。
(どこにいるの?)
 エアリスは心の中で思いました。
 すると、耳元で声がしました。
 いつの間にか、誰かがエアリスの傍にきていたようです。

「ここだ」
 心の中が読めるのでしょうか?
 びっくりして、エアリスは体を堅くしました。
(神様?)
 ちがう、とすぐさま答えが返ってきました。やっぱり心が読めるようです。
(では妖精さん?)

「・・・・・・まあ、そんなようなものでかまわん」

 返事は結構適当でしたが、悪いものではなさそうです。目がよくみえなくなったせいか、周りの空気の変化には敏感になったのですが、害意は感じられませんでした。
(じゃあ、妖精さんって呼んでもいいかしら?)
 暫く躊躇うような間があった後、それは恥ずかしいからやめてくれといわれたので、エアリスはがっかりと肩を落としました。
 エアリスがあんまりがっかりしたのがわかったのでしょう、彼――妖精さんもどきは美しい声でしたが、男の声でしたので、きっと男なのでしょう――はしぶしぶ口を開くとこういいました。
「・・・・・・アレックスと」
(それがあなたのお名前?)
 エアリスが心の中で問いかけると、彼は「そうだ」といいます。
 妖精さんもどきの名前がこれでわかりました。
 しかし、彼は一体どうしてここにやってきたのでしょう?
 不思議そうに首をかしげていると、アレックスは言いました。
「おまえが人形になりたいのなら、人形にしてやろう」
 本当でしょうか?
「本当だ」とアレックスがうなづいた気配がしました。
 そうして彼は自分が今人形がひとつ欲しいこと、エアリスの容姿が欲しい人形のイメージにぴったりなのだといいます。
 そんな時エアリスが願ったので、これ幸いに彼はエアリスに声をかけたのだそうです。
「お前が母のもとへいく日まで、人形になったままですごすといい」
 人形になったエアリスを大事にしてくれるとも言いました。
 その代わり、エアリスに一つ約束して欲しいといいます。

(それは何?)
 エアリスが心の中で尋ねると、彼はこういいました。

「人形になったら誰かを好きになってはいけない」

(お母さんも嫌いにならなきゃいけないってこと?)
 そう尋ねると、「いや、そうではない」と彼は言います。
 新しく誰かを好きになってはいけないということなのだそうです。
 それを聞いてエアリスは安心しました。お父さんもお母さんも村の人も好きです。
 けれども、他に新しく誰かをすきになることなど考えられませんでした。

(それなら大丈夫よ)
 エアリスはにっこりと笑いました。
 本当に、エアリスは久しぶりに笑いました。
(お人形にしてちょうだい)
 これですっかり決まりました。
 「人形になったら誰かを好きになってはいけない」と、アレックスは念のためもう一度言って聞かせました。
 誰かを好きになったら魔法が解けてしまうこと。  解けたら人形には戻れないこと。  そして、もしかすると、エアリスが人間だった頃の記憶もなくなってしまうかもしれないことを付け加えます。
 後で約束が違うといわれても困るからと、アレックスはこの三つを告げてそれでもいいのかどうかを尋ねましたが、エアリスの決心は揺らぎませんでした。
 エアリスの気持ちが変わらないことを確かめると、アレックスはエアリスをお人形にする呪文を唱えました。

 それからひとつ、ふたつ、みっつを数える頃にはエアリスは金色に青い目のぱっちりしたお人形へと姿を変えていました。

 ―――――。
 ――。


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