(式井こそ変な奴だと思うんだけどな)
私は特待生――要するに、授業料免除他もろもろの特別待遇を与える代わりに、成績は常時TOP3を保たなければならないなんて条件のつけられた生徒――だから、金も特別なコネもない。
偏差値の低くは無い学校でそれはほめられたことなのかもしれないけれど、人生、勉強ができるだけじゃ世の中は渡っていけない。
それがわかっている人間が多いから、私なんていう人間と付き合う人間もそう多くは無い。
利用価値の低い人間と付き合っているよりも、将来的に自分に役に立ちそうな人間と交際を結ぶことに重きを置く人間は、この学校は結構多いのだ。
私の利用価値など、せいぜいが試験前のノートのコピーであるとか、そういった程度のものだろう。
だから、式井のような一部の例外を除くと、私の周りには人が余りいない。
別にそれで不自由は特に感じていないから構わないけれど、でも式井は奇特な奴だなと思うわけ――わざわざ、この部屋まで顔を出しに来るし。
この部屋は前述の通り、余り知られていない。その上、景観はよいけれど、それ以上でもそれ以下でもないため、普通のおぼっちゃんお嬢ちゃんは階段でしかたどり着けない(そう、エレベーターではここまでこれないのだ)この部屋にはまず顔を出すことも無ければ、用事もないだろう。
「私とつるんでる君のほうがこの学院ではヘンだと思うけどね」
だからそれをそのまま伝えた。
「そう――かぁ?そんなことないと思うけど。皆、お前に話しかけてみたいけど、どうしていいかわからない感じだぜ?」
「そう?」
そんな気配、微塵も感じられなかったけれど。
なんだか遠巻きにして、こちらを伺われることが多かったけれど、それは私が異質だからだと思っていた。
実際はどうなんだろう。
式井の言う通りなのか。それとも、それは単なる式井のフォローなのか。
「そうだよ。まぁ、俺は人が多いのは苦手だから、お前の周りに人が余りいないほうが話しかけやすくていいけどな・・・っと、気を悪くしたらごめんな」
「いやいや、構わないけど。私もそんなにたくさんの人間と付き合えるほど器用じゃないし。友達が全くいないわけでもなく、親しい友達は何人かいるわけだからそれで十分さ――例えば君とかね」
あ、言ってしまった。
勝手に親しい友達認定、気に障るかな?
ちらりと式井を見たら、少し嬉しそうに笑ってたのでよしとする。
大丈夫らしい。
安心してほっと息をついた。
* * *
「ここが自分の家なら、さっき君にくつろげなんていわなかったさ」
式井の横で自分の肩をトンタンと叩き始めた私を、
「お前、本当に自分の家と勘違いしてないか」
と式井が笑うので、私は先ほどの話題を引っ張り出した。
「私の家は、中の中くらいの一般家庭だからね。おぼっちゃまな君には狭苦しかろうよ」
「そうか?」
「そうだよ。まあ、もし遊びにくる機会があったら覚悟したまえ」
「遊びに・・・・・・か。いけないだろうな」
そういって式井は苦笑した。
声に残念そうな響きがあるから、別に嫌がってのことだとは思えない。
さっきは仲良し認定をくれたようだし、友達の家にいけない理由とはなんだろうか。
「ん?忙しくてこれない感じ?」
「・・・・・・いや」
では、お家で友達付き合いを制限されているとか。
式井の家はお金持ちだし、そういうのがあってもおかしくない。
しかし、私がその推測を舌に乗せる前に、式井が真の理由を言った。
「それよりもさ。俺、男だし。女のおまえんちには気軽にいけるようなものでもないだろ」
――ああ、なるほど。
でも、
「そんな気にしないでもいいと思うよ?うち、弟も妹も男女構わず呼ぶような家だからさ」
遠慮することなどないと思う。
うちはその辺余り気にしない家なんだ。
「そうか?」
「うん。君の家はそういうの煩いんだ?」
女の子を連れてきたら、イロイロ言われるのかな。
「いや、そういうのはないけど。でも、ほら、男が女と密室に二人きりってのはさぁ・・・」
「なに、ムラムラしちゃう?」
「いや、それは無い!・・・・・・こともないかもしれない」
「どっちだ」
「いや、わからん。でも、もし邪な気持ちにうっかりなっちゃって、お前傷つけることになったらさ。嫌だし」
そんな風に少し照れた様に言われるとさ。
(――たまらん!)
・・・・・・のだけれど。そして、なんだか少し期待しちゃうんだけど。
いいのかな?
スマートだけど長身で筋肉も綺麗についた体の式井は決して愛らしい生き物ではない。
それなのに、可愛く見えちゃうのはなんでだろう。
乙女のサガか。
いやいや。
「式井、フェロモン出てる」
「え、ナニが」
「なんか、可愛く見えるフェロモンでてるよ。よだれじゅるりだよ」
「男が可愛く見えるとか、お前は病気だ!・・・・・・女がよだれじゅるりとかいうなよ・・・」
「いやいや、病気じゃないって。そして、男女差別は良くない」
「男女差別じゃなくてさ。えーと、とにかく、よだれじゅるりはやめろよ」
「わかったやめておく」
乙女としてまずいからというよりも、式井がやめて欲しいみたいだから。
「でも、可愛いフェロモンでてるのはホント」
「でてないって!」
「いやぁ、なんか愛でたくなるって」
そして、今気づいた事実。
「ねぇ、式井」
「なんだ?」
「今さ、密室男女二人きり。私のほうがムラムラしちゃったかもしれない」
指摘した事実に式井は急にうろたえた表情をしたので、私は本当に襲ってやろうかと半ば真剣に検討を始めたのだった。
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